どらぐら日記

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2020年度のグランパスの経営状況

先日、Jリーグ公式サイトで2020年度Jクラブ情報開示資料が公開されました。というわけで、今年もグランパスの経営状況について考察してみました。

1.コロナ禍の影響は大きく 約5億円の赤字

 まずは、過去5年分の損益統括表をご覧ください。

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2018年度までは5期連続の黒字だったものの、2019年度からは2期連続赤字。とりわけ2020年度は新型コロナウイルスの影響で、当期純損失は前年の2019年度を大きく上回る5億2900万円の赤字となりました。

なお、Jリーグクラブライセンスの交付については、2021年度末まで、債務超過および3期連続赤字を判定対象としないとする特例措置を設けています。

 

2.営業収益は約24%減 広告料収入は意外と減少せず

営業収益は、前年度比24.2%減の52億3600万円でした。名古屋に限らず、ほとんどのJ1クラブは新型コロナウイルスの影響を受けて減収となっています。とは言え、上の損益統括表をご覧いただければわかるように、名古屋の場合、2017年度以前より売上自体は多いです。

以下は、J1各クラブの営業収益と成長率のグラフです。

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営業収益の内訳は①広告料収入②入場料収入Jリーグ配分金(放映権料、商品化権料、賞金など)④アカデミー関連収入⑤物販収入(グッズ販売)⑥その他収入(移籍金、ファンクラブ収入など)グランパスとJ1平均の営業収益の内訳を比較してみましょう。

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毎年のことですが、J1平均と比べ、グランパスは広告料収入の割合が高いです。毎年、営業収益の6割程度を占めています。

広告料収入が多いこと自体は良いことですが、過度な依存は望ましくありません。今がまさにそうなのですが、景気が悪くなったり、降格したことでスポンサーを降りる企業が出てきたりして広告料収入が減ったら、クラブ全体の収入にも大きく影響してしまうからです。

コロナ禍にも関わらず、グランパスは新規のパートナー(スポンサー)を獲得するなどした結果、前年度比16%減に抑えています。神戸のように80%近い減収のクラブもあるなか、名古屋の営業担当さんの努力には、頭が下がる思いです。

 

3.大打撃の入場料収入 前年度比約7割減

先ほども書きましたが、広告料収入に依存しているクラブは、不景気や成績低迷を理由にスポンサーが離れてしまった時が怖いです。それに比べて入場料収入は、入場者数が大幅に落ち込まない限りはそれなりの収入が見込めます。また、入場者数が増えれば、スポンサーの獲得、グッズ販売、ファンクラブの加入などにも好影響をもたらします。

しかし、ご存じのように、昨年度はコロナ禍の影響で入場者数が激減。当然、入場料収入にも大きく影響しました。

ここでは、グランパスの入場料収入及び主催試合(リーグ戦とルヴァンカップ)の入場者数の推移を見てみましょう。

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入場料収入と入場者数は2016年から2019年まで増加の一途をたどっていましたが、2020年度は激減。入場料収入は前年度比69.0%の減少となりました。

言うまでもなく、この入場料収入の大幅な減少が約5億円の赤字となった最大の原因です。

今年度もコロナ禍の影響で入場者数の制限がかかっており、入場料収入は例年に比べると少なくなることは必至。また、収入が減るだけならまだ良いですが、コロナ禍をきっかけにスタジアムでの観戦をやめる人が出てきてしまう恐れもあり、中長期的に見ても厳しいです。

その対策として、クラブは平日のチケット価格を安くしたり、Jリーグのクラブとしては画期的な「テレワークスタジアム」の企画を実施したりしています。コロナ禍がいつ収まるのかはわかりませんが、再び日常を取り戻した時のことを考えて動いているのは、評価できますし、報われて欲しいと思います。

 

4.収入減でも減らせない人件費 人件費に見合った結果は出す

次に、人件費について。デロイト・トーマツ・グループが毎年発表している「Jリーグマネジメントカップ」によると、営業収益に対する人件費比率は50%を超えないのが望ましいと言われています。2019年度のJ1は、平均で50%でした。また、欧州5大リーグの平均は50~75%程度と言われています(2020年度は特殊なので、あえて2019年度の数字を書きました)。

グランパスの人件費と営業収益に対する比率の推移です。

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2020年度の人件費は、前年度比で4億4800万円減少も増加(11.8%減)。しかし、営業収益に占める人件費の割合は、57%から67%に上昇。ただ、この傾向は他のJ1クラブでも同様で、神戸に至っては、「人件費>営業収益」のため、比率が135%に…。経営危機に陥っている鳥栖は84%で、林大地(⇒シント=トロイデンVV)や松岡大起(⇒清水)といった活躍している選手を積極的に売却するのもわかります。

名古屋について書けば、今年度はACL出場のために柿谷や齋藤学らを積極補強し、さらには今夏、ポーランド代表FWシュヴィルツォクを獲得。タイトル獲得のためには、どうしても人件費をかける必要がありますが、あまりお金をかけ過ぎると、クラブの財政を圧迫するので注意が必要です。

 

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勝ち点1あたりの人件費は5600万円。2019年度は1億740万円だったので、改善されてはいますね。リーグ戦3位でACL出場権を獲得したので、人件費に見合った結果を出したとは言えます。

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5.債務超過一歩手前の状況に

最後は財政面。グランパスのバランスシートを見てみましょう。

 

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約5億円の赤字となった影響で、ひとつ間違えば債務超過(上の表の「資本(純資産の部」がマイナス)という危険な状況に陥りました。前年度は約4億6000万円あった繰越利益剰余金(内部留保)を食いつぶす形に…。

経営の安定性を示す自己資本比率(総資本に占める純資産の割合)。一般的には70%以上が理想、40%以上で倒産しにくいと言われています。名古屋は2.6%と、前年度の20%から低下。債務超過の危機もそうですが、経営の安定性という点では不安があります。

 

6.最後に

グランパスの経営状況については毎年、ブログで書いているのですが、2020年度は明らかに今までと異なる状況でした。記事を書いていて、「今までの常識が通用しないのでは」と思うことも度々です。

今年度も収益の大幅な改善は見込めないことから、名古屋は債務超過に陥る可能性があります。前述のように、債務超過になってもJ1クラブライセンスをいきなり取り上げられたりすることはないのですが、人件費削減のため、主力選手を放出せざるを得なくなる可能性はあります。

クラブのために私たちファミリーにできることは、試合のチケットを買ったり、グッズを買ったり、DAZNの年間視聴パスを購入することでしょうか。コロナ禍の影響で今までのように娯楽にお金を使えなくなってしまった人もいるでしょうから、気軽には言えませんが、できるだけで良いので、グランパスのためにお金を使ってあげることで、クラブを支えていきましょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【参考資料】
■Jクラブ個別経営情報開示資料(令和2年度)

https://aboutj.jleague.jp/corporate/wp-content/themes/j_corp/assets/pdf/club-r2kaiji_1_20210729.pdf

■2020年度クラブ経営情報開示資料(2021.7.29現在)

https://aboutj.jleague.jp/corporate/wp-content/themes/j_corp/assets/pdf/club-r2kaiji_2_20210729.pdf

Jリーグマネジメントカップ2019(デロイトトーマツグループ)

www2.deloitte.com