「良い攻撃は良い守備から」。守備からの立て直しを図るグランパス
孫子曰く
サッカーの話をする前に、まずは孫子の「兵法」の言葉を紹介します。
『勝つ可からざる者は守なり。勝つ可き者は攻なり。守らば則ち余あり。攻むれば則ち足らず。昔の善く守る者は、九地の下に蔵れ、九天の上に動く。故に能く自らを保ちて勝を全うするなり』
(孫子「兵法」)
攻撃と守備について、孫子は次のように説明しています。
「敵に負けないようにするのは守備のあり方である。敵に勝てるようにするのは攻撃のあり方である。守備を優先すれば兵力に余裕が生まれる。攻撃を優先すれば兵力が足りなくなる。昔から巧く守りながら戦う者は守りを固め、好機と見れば一気に攻めに転じた。そうした戦い方だからこそ、敵の攻撃から自軍を巧く守りながらも、確実に勝利を収めることができるのである」。
良い攻撃は良い守備から
孫子の言葉を読んで、攻撃を優先し過ぎて「兵力」が足りなくなって苦しんだ近年の名古屋グランパスの姿が思い浮かんだのは、私だけでしょうか?
孫子の言葉をサッカーに置き換えると、よく言われる「良い攻撃は良い守備から始まる」だと思います。私が説明するまでもないでしょうが、サッカーは攻守一体のスポーツです。
「相手をハーフコートに押し込んで圧倒的に攻めて勝つ」という風間前監督の理想は素晴らしいと今でも思っていますが、理想と現実は違うことを、昨年は嫌というほど痛感しました。ボールを失っても高い位置で奪い返すという約束事はありましたが、そこをかわされると、守備面の脆さを露呈し、得点よりも失点が増えていきました。
良い守備ができていないから、良い攻撃にも繋げられない。風間体制だけでなく、守備重視のスタイルで戦ったマッシモ体制でも、この課題をクリアすることはできませんでした。
年間40失点の「壁」
2019年のJ1で優勝した横浜Mは、総得点がリーグ1位の68と攻撃的なスタイルが称賛を浴びていますが、失点は38。リーグ7位の失点の少なさでした。
過去の優勝チームの失点数を見てみると、2018年の川崎が27失点、2017年の川崎が32失点、2016年の鹿島が34失点(鹿島はリーグ戦3位、CSで優勝。リーグ戦1位の浦和は28失点)と、40失点以内に抑えています。
一方の我らが名古屋は、2019年が50失点、2018年が59失点、2016年が58失点と散々な結果でした。上位進出を目指すなら、「まずは失点を減らそう」という動きになるのもわかります。
ハイプレスサッカーの実現なるか
先日の中日スポーツのインタビュー記事にて、マッシモは今季の戦い方について次のように語っています。
準備期間があるので、全く違うサッカーをやるために取り組む。具体的には、相手陣地のもっと高い位置でボールを奪うチームになる。
昨年はシーズン途中での就任となったため、準備期間が足りず、引いて守るぐらいしかできませんでしたが、今季は高い位置からボールを奪いに行く方針のようです。
その言葉を裏付けるように、広島から豊富な運動量に定評のあるMF稲垣祥を獲得。4-3-2-1の「クリスマス・ツリー」の3センターの一角として、うってつけの選手です。
「攻守一体の攻撃サッカー」という看板はそのまま掲げ続けるようですが、前体制とは異なるサッカーとなるのは明らか。孫子の言葉を借りれば、「まずはしっかり守り、好機と見れば一気に攻める」。昨年の試合で言えば、3-0で快勝したホーム・神戸戦が理想形でしょうか。
昨年は途中就任で準備期間が足りなかったというエクスキューズがありましたが、今年はそれもありません。何かと批判の多いマッシモですが、真価を問われるシーズンに彼が理想とするサッカーを具現化し、チームを上位に導くことができるのか。守備を疎かにしてきて結果を残せなかった、ここ数年のクラブの流れを変えてくれることを期待しています。