どらぐら日記

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2019年度のグランパスの経営状況

先日、Jリーグ公式サイトで2019年度Jクラブ情報開示資料が公開されました。というわけで、今年もグランパスの経営状況について考察してみました。

1.過去最高の営業収益も、6期ぶりの赤字

まずは、過去4年分の損益統括表をご覧ください。

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表は4期分しかありませんが、2018年度までは5期連続の黒字でした。2019年度は営業収益は過去最高の69億1200万円でしたが、当期純損失は1億6800万円の赤字となりました。営業利益は8500万円の黒字でしたが、営業外費用が2億7100万円が響きました。営業外費用は、選手・スタッフとの契約解除に際に生じる違約金も参入されるようなので、前監督の解任によるものと推測されます。

なお、Jリーグクラブライセンス制度では、2018年からはJ1とJ2に関して、3期以上連続の当期純損失(赤字)を計上しても、「前年度の赤字額が純資産額を上回っていないこと」を満たせば財務基準を満たすと判断されるよう交付規則が改定されています。つまり、以前のように「3期連続の赤字=クラブライセンスはく奪」というわけではなくなりました。したがって、「6期ぶりの赤字だからと言って、そこまで問題視しなくても良い」と書きたいところですが、新型コロナウイルスの影響が予想される2020年度の決算を考えると、少し不安があります。

2.営業収益は過去最高 広告料収入が中心

営業収益は、前年度比25.9%増の69億1200万円でした。2018年度に初の50億円台突破をしたのに、翌年には60億円台突破、70億円間近という驚異の売上増で、売上成長率は昇格組の大分を除けば、J1トップ(J1平均では10%増)。ちなみに、J1平均でも営業収益は50億円に迫っており、J1全体で売上を伸ばしています(5年前は約30億円程度)。

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※J1クラブとの比較の図を追加しました。


営業収益の内訳は①広告料収入②入場料収入Jリーグ配分金(放映権料、商品化権料、賞金など)④アカデミー関連収入⑤物販収入(グッズ販売)⑥その他収入(移籍金、ファンクラブ収入など)グランパスとJ1平均の営業収益の内訳を比較してみましょう。

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毎年のことですが、J1平均と比べ、グランパスは広告料収入の割合が高いです。毎年、営業収益の6割程度を占めています。

広告料収入が多いこと自体は良いことですが、過度な依存は望ましくありません。今がまさにそうなのですが、景気が悪くなったり、降格したことでスポンサーを降りる企業が出てきたりして広告料収入が減ったら、クラブ全体の収入にも大きく影響してしまうからです。

コロナ禍にも関わらず、グランパスは新規のパートナー(スポンサー)を獲得しており、クラブの営業担当さんの努力には、頭が下がる思いです。

3.入場料収入は増加傾向 10億円の大台を突破

先ほども書きましたが、広告料収入に依存しているクラブは、不景気や成績低迷を理由にスポンサーが離れてしまった時が怖いです。それに比べて入場料収入は、観客動員が大幅に落ち込まない限りはそれなりの収入が見込めます。また、観客動員が増えれば、スポンサーの獲得、グッズ販売、ファンクラブの加入などにも好影響をもたらします。

ここでは、グランパスの入場料収入及び主催試合(リーグ戦とルヴァンカップ)の入場者数の推移を見てみましょう。

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入場料収入と入場者数は2016年から増加の一途をたどっています。2019年は過去最多の約52万人を動員し、入場料収入も12億2100万円と、初の10億円台突破となりました。

入場者数が急増した一因は、デジタルマーケティング施策。近年、Jリーグの各クラブはデジタルマーケティング施策による観客動員数の拡大に取り組んでいますが、中でもグランパスはその成功例としてよく取り上げられています。簡単に説明すると、「JリーグID」を活用して、ライト層からコア層まで、様々な客層に対して適切なアプローチをすることにより、スタジアムへの来場者数を大幅に増やしました。

また、近年は学生を無料招待したり、割引チケットを増やした結果、客単価(入場料収入/入場者数)は、2016年の2,387円から2018年は2,107円に減少。しかし、ダイナミックプライシングを本格的に導入した2019年度は2,344円まで上昇。これも入場料収入の50億円台突破の一因となりました。

物販収入も、2016年度の1億8700万円から2019年度は5億6200万円と約3倍に増加。グランパスのためにお金を使ってくれる人が増えたことが、この数字からもわかります。

4.過去最高の人件費も、結果は伴わず

次に、人件費について。デロイト・トーマツ・グループが毎年発表している「Jリーグマネジメントカップ」によると、営業収益に対する人件費比率は50%を超えないのが望ましいと言われています。2019年度のJ1は、平均で50%でした。また、欧州5大リーグの平均は50~75%程度と言われています。

グランパスの人件費と営業収益に対する比率の推移です。

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2019年度は、人件費が前年度比で約11億円も増加(40%増)。2018年度途中に獲得した前田、丸山、中谷らの給料(2018年度には半年分しか計上されない)、さらに2019年度に獲得した米本、吉田豊らの移籍金や給料、さらに前監督解任によりフィッカデンティ監督を給料分の増額と思われます。営業収益に占める人件費の割合も、51%から57%に上昇。ちなみに、当期純損失20億円で経営危機に陥っている鳥栖は99%でした…。

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勝ち点1あたりの人件費は1億740万円と、はっきり言ってコスパは悪いです(ちなみに、優勝した横浜Mは3834万円。人件費が突出している神戸は1億4730万円)。クラブの収益は年々増加傾向で、その分を人件費に充てているわけですから、そろそろ結果を出して欲しいですね。

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5.財政面

最後は財政面。グランパスのバランスシートを見てみましょう。

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2015年度は、ひとつ間違えば債務超過(上の表の「資本(純資産の部」がマイナス)という危険な状況でしたが、クラブがトヨタ自動車の子会社となった16年度からは、改善傾向。繰越利益剰余金(内部留保)は18年度に6億3600万円まで増えましたが、19年度は4億6700万円に。前述した当期純損失1億6800万円が、ここに影響しています。

経営の安定性を示す自己資本比率(総資本に占める純資産の割合)。一般的には70%以上が理想、40%以上で倒産しにくいと言われています。19年度の名古屋は20.6%(FC東京は83.4%で、Jリーグでもトップクラスの高い数値)。18年度の32.2%から低下しているので、経営の安定性という点では少し不安があります。

 

6.次回予告?

拙いまとめではありましたが、グランパスの経営状況の現状が少しでもおわかりいただけたら幸いです。

今回は2019年度の決算についてですが、当然気になるのは今年度の決算。新型コロナウイルスの影響を受けるのは確実で、一体どうなってしまうのか? いつになるかわかりませんが、今後はその点について記事を書きたいなと考えています。


 

参考資料

Jクラブ個別経営情報開示資料(平成31年度)

https://www.jleague.jp/docs/aboutj/club-h31kaiji-1.pdf

2019年度クラブ経営情報開示資料(2020.7.30現在)

https://www.jleague.jp/docs/aboutj/club-h31kaiji_001.pdf

Jリーグマネジメントカップ2018(デロイトトーマツグループ)

https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/c-and-ip/sb/jp-sb-sportsbusiness-j-league-management-cup-2018.pdf